救命胴衣は義務です。 ― 着けていなかったことで起きた現実 ―

救命胴衣は義務です。

― それでも事故がなくならない理由と、命を守るために本当に大切なこと ―

 救命胴衣の着用は、法律で義務づけられています。これはお願いでも、自己判断でもありません。小型船舶に乗る以上、漁業者であっても、遊漁船であっても、釣り人であっても、必ず守らなければならない決まりです。

 それでも、海の事故は無くなりません。そして実際に、ここ瀬戸内・周防大島でも、近年、海難事故で漁業者が亡くなる事案が発生しています。

 数日後、運良く発見されました。しかし、もし遺体が沈んでしまっていたら、二度と発見されなかった可能性もあります。海では、一度沈んでしまえば、人は簡単に見つかりません。そうなれば、家に帰ることも出来ず、家族がきちんと向き合う時間すら持てないまま、事故として処理されてしまいます。

救命胴衣を着けていなかったという事実

 今回亡くなられた漁業者の方は、救命胴衣を着用していなかったと聞いています。もし救命胴衣を着けていれば、助かった可能性はもちろん、仮に命を落とす結果になっていたとしても、事故当日に発見されていた可能性は高かったと思われます。

 実際、発見されたのは事故から数日後で、場所は事故現場から数十キロも離れた海域でした。潮に流されれば、人は短時間で想像以上の距離を移動します。浮いていなければ、捜索の手がかりすら残りません。

 これは特別な話ではなく、海では現実として起きていることです。

なぜ、義務なのに着けられていないのか

 救命胴衣が義務であることを知らない人は、ほとんどいません。それでも現場では、「着けていない」「持っているだけ」「作業中だけ外している」という状況が見られます。

 理由は分かります。動きにくい、暑い、作業の邪魔になる、長年やっていて問題なかった。どれも、実際に海に立っている人間なら理解できる理由です。

 しかし事故は、「慣れた頃」「油断した瞬間」に起きます。そして海では、その一瞬の判断が取り返しのつかない結果につながることがあります。

海に落ちた瞬間、人は思ったより動けない

 「泳げるから大丈夫」と思っている方も多いかもしれません。ですが、実際に海に落ちた瞬間、人は想像以上に動けなくなります。

 冬場の海、水温の低い時期、夜間、疲労が溜まっている状況。冷水によるショック、重い作業着や靴。数分で体力を奪われ、思うように身体が動かなくなることもあります。

 そのとき、救命胴衣を着けているかどうかで、状況は大きく変わります。

救命胴衣は「助かるため」だけの道具ではない

 救命胴衣は、助かるための道具です。同時に、「浮いていること」「見つかること」のための道具でもあります。

 事故のあと、すぐに助けが来るとは限りません。周囲に船がいないこともあります。夜間や荒天では、捜索そのものが難しくなります。

 それでも浮いていれば、発見される可能性は残ります。浮いていれば、家に帰れる可能性が残ります。

 救命胴衣は奇跡を起こす道具ではありません。しかし、可能性を残す道具であることは確かです。

「持っている」と「使える」は違う

 救命胴衣を「持っている」ことと、「正しく使えている」ことは別です。

 サイズが合っていない、ベルトが緩んでいる、古くて劣化している、自動膨張式が作動しない状態。こうした状況では、本来の性能を発揮できません。

 義務だから持っている。検査があるから積んでいる。それだけでは命は守れません。

自分の作業に合った救命胴衣を選ぶ

 救命胴衣には、固型式や自動膨張式など、いくつかの種類があります。どれが正解という話ではありません。

 大切なのは、「着け続けられること」です。邪魔にならず、動きを妨げず、自然に着用できるものを選ぶこと。それが結果的に、命を守ることにつながります。

松田漁業用品店として伝えたいこと

 私たちは、救命胴衣を売るために、この文章を書いているわけではありません。不安を煽りたいわけでもありません。

 今年も、無事に港へ戻り、家に帰ってほしい。それだけです。

 そのために、必要なことを、必要な言葉で伝えたいと考えています。

まとめ

 救命胴衣は義務です。だからこそ、形だけになってはいけません。

 事故は起きないのが一番です。救命胴衣を使わずに済む一年であることが、何よりの理想です。

 それでも万が一のとき、「着けていてよかった」と思える準備を、今日からもう一度、見直してみてください。

 それが、自分のためであり、家で待つ人のためでもあるのです。

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